SUS440C(高硬度ステンレス鋼)とは?特徴・用途を解説
SUS440Cとは、炭素の含有量が0.95〜1.20%と多く、焼入硬化性が特に高いマルテンサイト系ステンレス鋼の一種のことです(上図参照)。焼き入れと焼き戻しによって、ステンレス鋼の中でも最高レベルのHRC58以上という硬度を出すことができます。高硬度であるため、耐摩耗性や疲労強度が高く、引張強さも良好で、機械的性質に優れたステンレス鋼です。価格は、SUS304と同程度か、SUS304よりも少し高いくらいとなっています。
SUS440Cの被削性は、焼き入れ前(焼き鈍し後の状態)であれば、普通鋼やフェライト系ステンレス鋼と同程度で、オーステナイト系ステンレス鋼よりは良好です。しかし、焼き入れ・焼き戻し後の被削性は悪いため、焼き入れ前に最終的な形状まで成形することが多くなっています。ただし、焼き入れ・焼き戻し後にも加工を行う場合は、硬度に関係なく加工ができる放電加工を採用したり、難削材用の工具を使用したりする必要があります。なお、JIS規格には、SUS440Cに硫黄を添加して被削性を改善したSUS440Fが存在します(上図参照)。
SUS440Cの焼入硬化性は特に良好で、焼き入れ・焼き戻しの適用が前提とされているステンレス鋼です。下表は、JIS規格(JIS G 4303:2021)に記載してある焼き鈍し・焼き入れ・焼き戻しの熱処理条件の例ですが、この条件以外の熱処理条件が用いられることもよくあります。
熱処理方法 焼き鈍し 焼き入れ 焼き戻し 温度 (℃) 800~920 1010~1070 100~180 冷却方法 徐冷 油冷 空冷 SUS440Cの用途・ベアリング(軸受)…回転・往復運動する部品を支持する部品のこと。荷重に対する形状不変性や摩擦に対する耐性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。
・刃物…包丁やハサミ、カミソリ、医療用メスなどの刃のこと。高い硬度と防錆性が必要であることから、SUS440Cがよく採用されています。
・ゲージ…製品検査で形状や精度などの検証に使用する測定・検査ゲージのこと。形状不変性や防錆性が必要であることから、SUS440Cが採用されることがあります。
・金型…耐摩耗性が必要。プラスチックの射出成形用の金型にSUS440Cが採用されることがあります。
SUS440Cの規格SUS440Cは、以下のJIS規格に定められています。
・JIS G 4303:2021「ステンレス鋼棒」
・JIS G 4308:2013「ステンレス鋼線材」
・JIS G 4309:2013「ステンレス鋼線」
・JIS G 4318:2016「冷間仕上ステンレス鋼棒」
SUS440Cの板材の規格はありませんが、市場には出回っています。なお、炭素含有量だけがSUS440Cと異なる、SUS440Aの板材については、以下のJIS規格に記載があります。
・JIS G 4304:2021「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」
・JIS G 4305:2021「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」
規格記号 JIS ISO EN ASTM 規格名 日本産業規格 国際標準化機構 欧州標準化委員会 米国試験材料協会 鋼種名 SUS440C X110Cr17 1.4023 S44004SUS440Cの機械的性質
焼き鈍し状態の硬さ 焼き入れ・焼き戻し状態の硬さ HBW HRC HV HBW HRC HV 269以下 28以下 284以下 − 58以上 653以上SUS440Cの硬度は、「JIS G 4303:2021」にて上表のように規定されています。ただし、必ずしもこれらの硬度になるわけではなく、特に焼き入れ後と焼き戻し後の硬さは熱処理条件によって大きく変わります。
焼き入れ温度 900℃ 950℃ 1000℃ 1050℃ 1150℃ 硬度 (HRC) 47 53 59 61 42 焼き戻し温度 引張強さ 0.2%耐力 伸び 硬さ MPa MPa % HRC 焼き鈍し状態 758 448 14 27.71 (269HB) 204℃ 2030 1900 4 59 260℃ 1960 1830 4 57 316℃ 1860 1740 4 56 371℃ 1790 1660 4 56SUS440Cの物理的性質
密度 熱伝導率 比熱* 比電気抵抗*×10-8 磁性* g/cm3 W/(m・K) J/(g・℃) Ω・m 7.78 24.3 0.46 60 強磁性 温度 (℃) 20 100 200 300 400 ヤング率 (GPa) 215 212 205 200 190 温度範囲 (℃) 20~100 20~200 20~300 20~400 20~500 熱膨張係数 ×10-6 (℃) 10.4 10.8 11.2 11.6 12.0SUS440Cの成分
炭素 ケイ素 マンガン リン 硫黄 ニッケル クロム モリブデン C Si Mn P S Ni Cr Mo 0.95~1.20 1.00以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 0.60以下 16.0~18.0 0.75以下SUS440Cは、ステンレス鋼の硬度や強度、焼入性に効果がある炭素の含有量が多く、焼入性のほか、耐食性や耐熱性を向上させるクロムの含有量も比較的多いステンレス鋼です。クロムは、防錆性の源となる酸化皮膜を形成し、焼き入れ後には、炭素と結合してクロム炭化物となり、SUS440Cの硬度や強度に寄与します。
SUS440Cの耐食性
腐食条件 代表的なステンレス鋼の腐食度 (g/(m2・hr)) SUS440C SUS420J2 SUS304 SUS430 SUS630 水* 0.18 - 0.08 - 0.08 塩酸 (5%) 10.1059 34.1313 0.4390 12.2568 0.4772 硝酸 (5%) 18.8831 0.3100 0.0137 0.0058 0.0071 硫酸 (5%) 15.5991 22.1287 0.4062 8.7807 0.2707 塩酸性塩化第二鉄 (6%) 17.1194 15.9090 4.1834 - 7.5868 塩水 (5%) 0.0129 0.0067 0.0000 - 0.0000 腐食条件 代表的なステンレス鋼の孔食電位 (mV) SUS440C SUS420J2 SUS304 SUS430 SUS630 塩水 (3.5%) -300 20 - 120 100SUS440A、SUS440Bとの違い
鋼種 炭素 ケイ素 マンガン リン 硫黄 ニッケル クロム モリブデン C Si Mn P S Ni Cr Mo SUS440A 0.60~0.75 1.00以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 0.60以下 16.0~18.0 0.75以下 SUS440B 0.75~0.95 1.00以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 0.60以下 16.0~18.0 0.75以下 SUS440C 0.95~1.20 1.00以下 1.00以下 0.040以下 0.030以下 0.60以下 16.0~18.0 0.75以下・硬度:SUS440C > SUS440B > SUS440A
・靭性:SUS440A > SUS440B > SUS440C
・耐食性:SUS440A > SUS440B > SUS440C
なお、これらの硬度の値は、「JIS G 4303:2021」にて下表のように規定されています。
鋼種 焼き鈍し状態の硬さ 焼き入れ・焼き戻し状態の硬さ HBW HRC HV HBW HRC HV SUS440A 255以下 25以下 269以下 − 54以上 577以上 SUS440B 255以下 25以下 269以下 − 56以上 613以上 SUS440C 269以下 28以下 284以下 − 58以上 653以上「SUS440Cを使用した金属部品の調達に困っている」
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