Без кейворда
特に、隈にとっても新たなチャレンジとなったのが、時計の組み立てや調整を行なうメインのクリーンルームだ。精緻な時計の製造には、防塵や空気清浄を確保したクリーンルームは欠かせないが、木造建築ではこれまであまり例がない。 「クリーンルームは要求される機能レベルがとても高く、木造では難しいのです。そこで照明方法や床からの空調なども含めて現代の最高技術を駆使する一方、シンプルさを追求しました。じつはこのシンプルというのが一番難しい。それも高い技術力があったからこそ実現でき、機能性を備えつつ、木という伝統的な素材のよさも引き立ちました。僕が目指すこともグランドセイコーが目指していることも、実はすごく近いと感じていて、最先端のテクノロジーを駆使しつつも、そのベースには自然がある。その2つがうまい形でつなげられたらといつも考えています。日本人はそのようにして文化や技術を築いてきたのではないでしょうか。そうした思いをこの建物に込めました」(隈)。 訪れたビジターは、廊下越しに広がる豊かな自然とともに、このクリーンルームで誕生するグランドセイコーを目の当たりにできる。「グランドセイコーのものづくりは、実際の現場で見ていただくとその本質が分かると思います。そこには日本人が長い年月をかけて育んできた匠の精神が息づいています。セイコーの匠というのは、非常に日本的なもの。日本の匠を育てたのが日本の自然であり、このスタジオでは美しい自然に育まれた匠の技が発揮され、時計が生まれていくというプロセスを感じていただけることでしょう」(隈)。
「グランドセイコースタジオ 雫石」のある地は、以前から豊かな森林だった。盛岡セイコー工業では生物多様性の保全に積極的であり、サステナビリティ活動にも精力的である。 雫石の自然を守りながら、生産活動を活性化させることで地域貢献につながると語る、盛岡セイコー工業の林 義明社長。 Photography by Kenichi Shimura時計は精密機械であっても、そのものづくりを支え、血を通わせるのは美しい自然であり、四季を通して人間に与えるインスピレーションということなのだろう。「時計というのは、それだけ人間に身近で心情を映し出す存在だからでしょうね。特に『THE NATURE OF TIME』の理念を掲げるグランドセイコーが、自然の中でどれだけその本質を追求できるか。ものづくりを通してぜひ実現していきたいと思っています」(林)。
盛岡セイコー工業の加藤幸則副社長。このスタジオで働く各人が仕事への意義や自信を持つことがグランドセイコーを成長させると語る。 Photography by Kenichi Shimura本格稼働に向けて準備を進める「グランドセイコースタジオ 雫石」だが、人に目を向けると、ここで働くことは、ブランドを代表してものづくりをすることであり、働く人を育てることにつながる。盛岡セイコー工業の加藤幸則副社長は語る。 「ものを作るという意味では、これまでと同じ、この拠点でやってきたことに大きな変わりはありません。ですが、そこで多くの人に私たちの仕事をより深く理解していただくということがスタジオ設立の大きな意義であり、そうした自覚を持って仕事をしていくことが個々のモチベーション向上にもつながることでしょう。ここで自分がものを作っていくというプライドと自信が大きな支えになるのです」(加藤)。 加藤の言葉を借りれば、「ブランドは人が支えるもの」であるということだ。「ここで働くということに誇りを持ち、そしてそれを次の世代に継承していく。スタジオの一人ひとりがこうした意識を持つことが、私たち自身の成長と、ブランドとしての評価につながっていくと思います」(加藤)。
(敬称略) →GRAND SEIKOの聖地・雫石(前編)へ ◆グランドセイコースタジオ 雫石 岩手県岩手郡雫石町板橋61番地1Text by Mitsuru Shibata Photography by Takashi Sekiguchi
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