歌舞伎の演目「暫(しばらく)」とは?初心者が楽しめる6つのポイント
敵方の役も曲者ぞろいです。真っ赤な顔の「 赤っ面 あかっつら 」と呼ばれる隈取で、赤い大きな腹を出した「腹出し」と呼ばれる、乱暴者の成田五郎と五人の手下。鯰のようなヒゲの隈取に、タコの足の衣装を着た「 半道敵 はんどうかたき (半分道化で半分敵役)」の鯰坊主こと 鹿島震斎入道 かしましんさいにゅうどう 。位の高さを表す「 金冠白衣 きんかんびゃくえ 」という衣装を着た、禍々しい「公家荒れ」の青い隈取をしたラスボス 清原武衡 きよはらのたけひら などなど、個性的なキャラクターの衣装や隈取にも注目です。
隈取についてもっと詳しく知りたい方は以下のページも御覧ください。
歌舞伎の隈取の種類と意味をイラストで紹介!メイクのやり方も解説「暫」は歌舞伎十八番の人気演目
「暫」の第4の魅力は 歌舞伎十八番の一つに選ばれている ことです。
「歌舞伎十八番」とは、歌舞伎界の宗家と呼ばれる市川團十郎家がお家芸としている18演目のことで、荒事と呼ばれる荒々しい勇壮な演技で人気があります。
「暫」の内容の演目は初代・市川團十郎によって始められました。元は「参会名護屋」という題目で、上演のたびに内容は違っていましたが、七代目・團十郎がお家芸として「歌舞伎十八番」を選んだときに、「暫」もその一つに含まれて、題名も固定されました。その後、九代目・團十郎が演じた内容が固定されて現代に伝わっています。
歌舞伎十八番の中でも「暫」は、荒事の代表格と言っていい「勧善懲悪」を基本とする演目で、主人公の豪傑らしい力強い「 見得 みえ 」の数々や、巨体をゆすった「 六方 ろっぽう 」の引込みなど、歌舞伎特有の見どころにあふれています。そしてそれだけでなく、主人公の鼻息で敵の奴たちがくるくると飛んでいったり、大太刀を振ると敵の仕丁たちの首がゴロゴロと床に転がり落ちる演出など、歌舞伎十八番の中でもユーモアに溢れた人気の演目となっています。
歌舞伎十八番について詳しくは以下のページをご覧ください。
歌舞伎十八番とは何か?市川團十郎家の「おはこ」の演目を紹介「暫」の主人公・鎌倉権五郎とは
「暫」の第5の魅力は主人公・ 鎌倉権五郎のキャラクター です。
名前のモデルとなっているのは、平安時代後期に活躍した 鎌倉景正 かまくらかげまさ という実在の武将で、芝居の中での本名は 鎌倉権五郎景政 かまくらごんごろうかげまさ となっています。悪人の清原武衡にいじめられている 加茂次郎義綱 かもじろうよしつな の加茂家の家臣という立場です。
権五郎は超人的な力を持っており、江戸っ子が憧れるヒーローですが、実はまだ18歳の若者なのです。
ときに子供っぽい台詞があったり、前髪が残っているのが少年であることの証ですが、古来より日本では幼いものに悪霊を払う神聖な力が宿ると信じられていたので、まだ少年である権五郎が超人的な強さを持つのは、不思議なことではありませんでした。特にその「にらみ」は神聖な魔除けの力があるとされています。
また、歌舞伎では「荒事は少年の心で演じよ」という教えがあるそうですが、そのとおりに邪気のない純粋な気持ちで演じることが求められる役なのです。
「暫」の歴史とあらすじ
「暫」の第6の魅力はその 歴史の深さとあらすじの面白さ です。
成立した歴史「参会名護屋」という原題で初めて演じられたのは、元禄10年(1697)の江戸中村座と言われており、作者は中村明石清三郎と初代團十郎となっています。このときの主人公の名前は「 不破伴左衛門 ふわばんざえもん 」(歌舞伎十八番「不破」の主人公)で、悪人のボスは「正親町太宰之丞」となっており、今とは違う役名でした。
江戸時代、歌舞伎の世界では一年の始めは11月となっており、その年新しい役者の最初の興行である「顔見世」が行われていました。このとき「暫」の演目に当たる一場面が、趣向を変えて必ず上演されることになっており、新しい年の主な役者のお披露目の場となっていたのです。
現在上演される「暫」は、明治28年(1895)に九代目團十郎が演じたものが固定化されて、独立した一つの演目となったものです。近年では平成16年(2004)の十一代目市川海老蔵の襲名披露公演で上演され、令和4年(2022)には5月の團菊祭で十三代目市川團十郎白猿が演じています。
舞台設定・登場人物[su_table responsive="yes" alternate="no" fixed="yes"]
舞台設定 鎌倉鶴岡八幡宮[/su_table] [su_table responsive="yes" alternate="no" fixed="yes"]
鎌倉権五郎景政 かまくらごんごろうかげまさ 超人的な力を持ったスーパーヒーローの18歳の若者。加茂家の忠臣。 加茂次郎義綱 かもじろうよしつな 加茂家の武士だが家宝の「国主の印」を無くして父親から勘当されている。大福帳と掛額を奉納に来てトラブルに巻き込まれる。善良ないい人。 桂の前 義綱の許嫁。 清原武衡 きよはらのたけひら 中納言。皇位を狙う悪の権化。桂の前に横恋慕している。 成田五郎義秀 なりたごろうよしひで 武衡の手下で乱暴者「腹出し」のリーダー格。 鹿島震斎入道 かしましんさいにゅうどう (鯰坊主) 武衡の手下の道化役。鯰のような顔をした坊主。 那須九郎妹照葉 なすくろういもうとてるは (女鯰) 武衡の手下だが、実は間者で義綱の味方。権五郎の従姉妹でもある。 小金丸行綱 こがねまるゆきつな 義綱の兄・義家の家来。宝剣・雷丸を義綱に届ける。 四天王 武衡の4人の家臣。威勢のいいことを言うが権五郎におそれおののいて何もできない。 奴・仕丁 やっこ・しちょう 武衡の手下の下っ端。鼻息で吹き飛ばされたり、首を切られたりとひどい目に合う。 あらすじ歌舞伎の「暫」上演情報
歌舞伎十八番の内「暫」の上演情報を紹介します。
2025年10月 博多座・京都南座「市川團十郎特別公演」 【2025年10月】歌舞伎公演情報 歌舞伎三大名作ラスト上演!巡業&特別公演も盛りだくさん!「暫の像」がある浅草と歌舞伎の関係
浅草の浅草寺の裏手に「暫の像」があるのをご存知ですか? 「劇聖」と呼ばれた明治の名優・九代目市川團十郎が、鎌倉権五郎を演じて 元禄見得 げんろくみえ を決めている姿がモデルになっています。
暫のDVD
歌舞伎十八番の人気演目である「暫」のDVDを紹介します。
歌舞伎名作撰 歌舞伎十八番の内 暫 歌舞伎十八番の内 外郎売 [DVD] 平成15(2003年)年5月に歌舞伎座で上演された映像です。鎌倉権五郎を十二代目市川團十郎、清原武衡を市川左團次、加茂次郎義綱を尾上菊五郎が演じています。同じく歌舞伎十八番の外郎売も収録されています。
まとめ
歌舞伎の人気演目、「暫」について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
数ある歌舞伎の演目の中でも一番痛快なヒーローストーリーであり、耳に残る爽快なつらねと台詞、驚きの巨大な衣装など見どころ満載です。
歌舞伎十八番の荒事の代表的な演目でもあり、主人公・鎌倉権五郎の力強さと子供っぽさが同居するキャラクターも魅力的です。
長い歴史の中で様々な「暫」が演じられてきましたが、九代目團十郎によって、現在の形が作られ、浅草には「暫の像」も建てられるほど、 歌舞伎を象徴する演目 となっています。
今後の公演情報もチェックして、上演されるときはぜひ観劇してみてくださいね。
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