ショスタコーヴィチ 交響曲第10番
それから1953年のスターリンの死までの間、ショスタコーヴィチはソヴィエト当局のプロパガンダに沿った作品を作曲して非難を避けました。この時期の作品としてオラトリオ『森の歌』が有名です。『森の歌』はソヴィエト当局の意向に沿って歌詞が買えられたりしています。それにしても、プロパガンダに沿った作品でも素晴らしい曲を作曲してしまうのがショスタコーヴィチです。明るい作風ですが『森の歌』は駄作ではありません。しかし交響曲はその期間、作曲していません。
ドゥダメルとシモン・ボリバル・オーケストラの快演、少し明るすぎる感じですけど スターリンの死、同年に初演そしてスターリンが死んだ1953年から、ソヴィエトは 「雪解けの時代」 を迎えます。スターリンの死を待っていたかのように発表されたのが、この交響曲第10番です。交響曲第9番から8年後のことでした。交響曲第10番はソヴィエトの楽壇では賛否両論でした。
初演は1953年12月17日にエフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニーの演奏で行われました。
戦争交響曲の完結編交響曲第10番はショスタコーヴィチが弟子に宛てた手紙で「戦争三部作の完結編」と述べています。また 「私は人間的な感情と情熱とを描きたかった」 と述べています。
第1楽章は重苦しい雰囲気と零下20度くらいのシベリアの大地のような音楽が20分も続くので、コンサートで聴いてもCDで聴いても緊張感で客席にいるだけでも大変です。でもこの緊張感がなければ、名演とは呼べないと思いますけど。
ロストロポーヴィチ最後の来日昔、ロストロポーヴィチの最後の来日で交響曲第10番を聴きましたが、これは物凄い緊張感でした。前プロのヴァイオリン協奏曲ではヴァイオリンの弦が切れ、交響曲第10番ではロストロポーヴィチはなんと 新日本フィルの弦から零下20度の凍り付くような響きを出して見せました 。凄い、こんな響きが出るんだと圧倒されましたが、長い緊張感の連続。こんなにしんどいコンサートはなかなか無いですね。今ではここまでリアリティのある演奏が出来る指揮者はもう居ないかも知れません。
第1楽章:ソナタ形式第1主題ではD,Esが暗示的に表れ、後半の楽章ではDSCH音型に発展します。「プーシキンの詩による4つのモノローグ作品91」(1952)の第2曲「 あなたにとって私の名前など」の音型がこの第1楽章に織り込まれています。 実際、聴いてみるとこの音楽はバロックの様式であるパッサカリア、あるいはシャコンヌの要素が多い ことに気づきます。ショスタコーヴィチのパッサカリアは新古典主義としても分かりにくい所がありますが、この音楽はパッサカリアの特徴である、執拗な繰り返しを上手く使っており、名作と言えます。またバルトークの弦・打・チェレの第1楽章のパッサカリアにも似ています。
第2楽章:スケルツォ『ショスタコーヴィチの証言』によれば、この楽章は「おおざっぱに言って、音楽によるスターリンの肖像である」とされています。スターリンはこの作品が発表される前に亡くなっており、 狂喜の音楽 にも聴こえます。ショスタコーヴィチの作曲技法の凄さが伝わってくる曲でもあり、オーケストレーションは驚異的です。ソヴィエト時代の演奏はテンポが非常に速く、ムラヴィンスキーなど、驚くべきスピードで一気に演奏されていて、 曲の意図とは違うかも知れませんが、凄い爽快感 です。
第3楽章:三部形式第1楽章と同様、3拍子のパッサカリアともとれる構成になっています。マーラーの「大地の歌」の冒頭が現れます。ホルンの咆哮が印象的です。 全体的に「大地の歌」のパロディ が多く、「大地の歌」へのオマージュとも言えます。終結部にDSCH音型が現れます。
第4楽章:ソナタ形式序奏付のソナタ形式です。序奏では低弦が陰鬱なメロディを奏でます。主部では一転して明るくなりますが、まるでピエロのような音楽です。ここでもバロックのフォリアを思い出します。急かされるように狂気を帯びていきます。 最後はDSCH音型 を輝かしく強奏します。
ショスタコーヴィチは色々な素材を用い、ロシア的なスケールの大きな音楽にしていますが、骨格は珍しく古典的な交響曲の構成をとっており、このことが交響曲第10番を引き締まった交響曲にしています。
おすすめの名盤レビュー
それでは、ショスタコーヴィチ作曲交響曲第10番の名盤をレビューしていきましょう。
カラヤン=ベルリン・フィル ダイナミックで重厚、スケールの大きな名盤指揮 ヘルベルト・フォン・カラヤン 演奏 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
カラヤンはショスタコーヴィチの交響曲第10番を得意としていて、第5番『革命』の録音はないのに、交響曲第10番は何度も録音しています。1966年の録音はその最初期にあたるものです。その後1969年にロシア公演でショスタコーヴィチ本人やムラヴィンスキーの前で演奏している位です。その時、 ショスタコーヴィッチからは「美しい演奏」という賛辞 をもらっています。この時の録音もあり、CD化されています。
第1楽章は重厚な響きで、冷たさとダイナミックさがあります。 スケールの大きさはさすが当時のカラヤン=ベルリン・フィル です。 緊張感と凄いアンサンブルには圧倒されます 。どんなにダイナミックに演奏しても響きは透明感を保っていて、とても1966年の録音とは思えません。第2楽章は速くはありませんが力強い演奏で、アンサンブルは完璧です。後半のダイナミックさは凄いものがあります。第4楽章は、速めのテンポで重厚かつダイナミックです。
カラヤン=ベルリン・フィルの演奏は、スコアを忠実に音化したのもで、あまり感情を入れていないので、ロシア系の演奏に比べるとむしろクールかも知れません。ロシア勢と演奏スタイルは大分違い、 ロシア系の演奏家では聴けない新鮮なショスタコーヴィチが聴ける名盤 です。
ムラヴィンスキー=レニングラード・フィル 第2楽章の物凄いスピード!静けさの中に情熱を感じる指揮 エフゲニー・ムラヴィンスキー 演奏 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
ムラヴィンスキー=レニングラード・フィルの演奏は、初演者の演奏ということもあって、 曲への強い共感と感情的なダイナミズムに溢れています 。この曲の多くを占める静かな音楽は、緊張感あふれる冷たい音楽です。これを表現するのにレニングラード・フィルを超えるオケがあるとは思えません。
第1楽章は静かですが、クールさと共に 感情的に濃厚な表現 もあり、両方を同時に表現してしまう、レニングラード・フィルの弦セクションは凄いです。恐怖感と作曲者への共感のレヴェルも高いです。後半の叫びのような盛り上がりも非常にリアリティがあります。第2楽章の スピードは恐らく一番速いと思います。 録音状態によりけりですが、技術的には完璧で凶暴で驚きのアンサンブルです。 前半で既に圧倒されてしまいますが、後半金管が入ってくるのでさらに凄いことになっています。 第3楽章も第1楽章と同様、曲への理解の深さを感じます。後半の金管の咆哮も迫力あります。第4楽章はテンポが速く素晴らしい演奏です。 強烈なリズム、金管の咆哮!レニングラードフィルの金管の凄さ を感じます。
カラヤン盤は凄い演奏ではありますが、やはりスコアを再現したものであって、ショスタコーヴィチ自身の感情は入っていません。1960年代なので録音も少なく仕方ないかも知れませんけれど。その点、ムラヴィンスキーは初演者でショスタコーヴィチ自身と直接やり取りしているので、その意見も入っていると思います。
ムラヴィンスキー=レニングラード・フィル どす黒い生き物がうねる様な凄みのある超名演指揮 エフゲニー・ムラヴィンスキー 演奏 レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルがプラハで演奏したライヴです。初演は1953年でこのライヴは1955年なので、時代のリアリティが半端ではありません。音質も悪くはなく、凄みのある演奏に圧倒されます。
第1楽章は他の演奏では聴けないようなリアリティです。弦セクションがどす黒い音色で遠慮なく荒れ狂います。このうねりは丸で生き物の様で、他の凍てついた演奏と違って どんどん盛り上がり、圧倒的な頂点を築きます 。ムラヴィンスキーのショスタコーヴィチの中でも一二を争う名演です。
第2楽章は物凄く速いです。 弦が鋭利な響きで、金管も凄い咆哮ぶりで圧倒的な迫力 です。本当の迫力とは、こういう演奏のことを言うのだろう、と思います。ラストまで凄い速さと輝かしい金管で一気果敢に演奏しています。
第3楽章は緊張感の中、ヴィブラートを掛けたホルンの響きが印象的です。テンポは速めで、 盛り上がってくるとさらにアッチェランドがかかり凄い熱気で、大迫力 です。残響は程よくあり、さすがスメタナ・ホールだと思います。第4楽章は静かで味わいのある序奏から主部に入ると速めのテンポで力強い演奏です。
第1楽章の冒頭から凄いエネルギーでタコ10の世界に引きずり込まれ、全く飽きることなく全曲聴きとおせます。迫力のある第10番が聴きたいなら、持っておきたい超名盤です。
ショルティ=シカゴ交響楽団 ショルティらしい理知的な演奏が第10番の素晴らしさを前面に押し出した指揮 ゲオルグ・ショルティ 演奏 シカゴ交響楽団
1990年10月 シカゴ、コンサート・ホール (ステレオ/デジタル/セッション)
ショルティと手兵シカゴ交響楽団による引き締まったショスタコーヴィチの名盤です。録音も高音質です。
第1楽章は、 バルトークを彷彿とさせる速めのテンポの演奏 で、ロシア的な広大さはあまり感じませんが、パッサカリアとしてはとても説得力があり、この曲の本来の演奏スタイルなのではないか、と思います。第2楽章は、速いテンポでシカゴ交響楽団も爆発的な演奏を披露しています。第3楽章は、これもテンポが速めで、曲の構成がとても良く分かります。第4楽章は、主部のテンポが速く、狂喜の盛り上がりを自然に演奏しています。
楽譜に忠実で、曲の良さが前面に出た演奏で、 ショルティのショスタコーヴィチ演奏でも特に素晴らしい名盤 です。 ショスタコーヴィチ交響曲第10番の今まで気づかなかった魅力 を聴かせてくれます。
ロストロポーヴィチ=ロンドン交響楽団 スケールが大きく、リアリティがある名盤指揮 ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ 演奏 ロンドン交響楽団
ロストロポーヴィチはテンポも遅いし、昔はあまり聴いていなかったのですが、最近になって大きく見直しました。西欧やアメリカのオケを使ってロシア的な響きを出してくることや、 新日本フィルで実演に接したときに零下20度の弦の響きを新日本フィルから引き出してくる指揮者 としての力量です。ただムラヴィンスキーやコンドラシンに比べるとテンポが遅いため、スリリングさは弱いです。しかし、緩徐楽章で見せる重厚さと時代のリアリティはやっぱり凄いですね。
第1楽章は 厚めの響きでロシアの冷たい大地のような響き です。分厚い響きのまま盛り上がりスケールのあるサウンドになります。後半は金管がダイナミックに咆哮し、パーカッションが容赦なく打ち付けます。そして、教会の讃美歌のような音楽になっていきます。 録音の音質も良いです。やはり1990年代の録音ですからね。 第2楽章は、速さではなく重さも重視していると思います。最初の2つの音の重さはこのCDではそこまででもないですが、実演ではかなり重さを感じました。ダイナミックに盛り上がりますが、スピード勝負はしていないですね。
第3楽章は全体的に非常に静かな演奏です。静かですが緊張感があります。 後半は急にダイナミックになってホルンが咆哮 します。第4楽章は静かに始まり、フルートやクラリネットが不安そうに登場すると、弦が盛り上がり、テンポが速くなります。丁寧な演奏です。 テンポの速い部分はリズミカルに演奏 しています。最後はスピード感を保ったままダイナミックに終わります。
交響曲第10番はロストロポーヴィチに合った交響曲だと思います。オケのロンドン交響楽団もダイナミックな響きでロストロポーヴィチの音楽を的確に再現しています。アンサンブルのクオリティも高く、良いコンビです。
ペトレンコ=ロイヤル・リヴァプール・フィル指揮 ヴァシリー・ペトレンコ 演奏 ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
ペトレンコが凄い指揮者であることは分かっているのですが、ロイヤル・リヴァプール・フィルはそこまでパワフルなオケではないので、ロイヤル・リヴァプール・フィルの調子次第という所でしょうか。この演奏でも十分素晴らしいですが、いずれベルリン・フィルで再録音が期待できますね。
第1楽章は静かに始まります。ロイヤル・リヴァプール・フィルの弦は線の細く色彩的な響きで、なんとなくバレエ音楽が得意そうな音色です。ペトレンコは鋭いアクセントをつけて緊張感を出しています。しかし世代の違いもあるでしょうけど、寒々としたリアリティはロストロポーヴィチほどではないと思います。 緊張感はそれなりにあり、最近の演奏ではやはり出色の演奏ですね。 録音が良いので新鮮な響きが聴けます。ショスタコーヴィチのオーケストレーションをしっかり再現していて、このクオリティはカラヤン盤以来かも知れませんね。第2楽章はオケのレヴェルの高さを見せ付けられました。 ペトレンコは容赦なく速いテンポで鋭い指揮 です。それにロイヤル・リヴァプール・フィルはついていって最後は相当ダイナミックに演奏しています。響きが汚くなることはありません。久々にこのレヴェルの演奏を聴いた気がします。ムラヴィンスキーもコンドラシンも昔の録音で多くはソ連での録音なので、これだけ高音質でこのレヴェルの演奏が聴けるのはこのCDの凄い所です。
第3楽章は静かな演奏ですが不気味さもそれほどなく聴き易いです。スケールがあまり大きくなくホルンの咆哮もそれほど切迫感はないです。その代わり、この楽章では 意外に味わい深いロシア的な弦の音色が聴けます 。緊張感が少ない分、落ち着いて音楽をじっくり聴けます。リズミカルになるとロイヤル・リヴァプール・フィルは急に活気づきます。この辺りペトレンコとオケのリズム感の相性が良いですね。
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ショルティ=バイエルン放送交響楽団 実力ある組み合わせによるスタンダードな名演指揮 ゲオルグ・ショルティ 演奏 バイエルン放送交響楽団
ショルティとバイエルン放送交響楽団の演奏の映像です。ショルティの緻密でリズミカルな指揮ぶりが見られます。バイエルン放送交響楽団はショルティの個性に良く合ったサウンドなので、このコンビでの録音があっても良さそうですが、やはりショルティはシカゴ交響楽団との関係が切っても切れませんからね。
ショスタコの第10番は、良い意味でスタンダードな名演 です。テンポは中庸で、その代わり余分なルバートがなく、ショルティの良さが良く出ています。ロシアの演奏家のようなリアリティはありませんが、曲としての交響曲第10番をスコアを深く読み、高いレヴェルで演奏しています。バイエルン放送交響楽団はパワーがあり、ショスタコーヴィチに向いていますが、ショルティはダイナミックになりすぎることなく、 精緻さのある引き締まった演奏 を繰り広げています。そしてダイナミックさが必要な個所では思い切り鳴らしていて、迫力があります。第4楽章の主部など、リズミカルで小気味良い名演です。
なお、リージョンがPALなので、日本のDVDプレーヤーでは再生できません。パソコンなどで再生できます。
テミルカーノフ=ヴェルビエ音楽祭管弦楽団指揮 ユーリ・テミルカーノフ 演奏 ヴェルビエ音楽祭管弦楽団
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楽譜・スコア
ショスタコーヴィチ作曲の交響曲第10番の楽譜・スコアを挙げていきます。
ミニチュアスコア ハードカバー楽譜をさらに探す
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