. The Final〜 俺たちの野音 ライブレポート 前編 - 三浦日記
The Final〜 俺たちの野音 ライブレポート 前編 - 三浦日記
The Final〜 俺たちの野音 ライブレポート 前編 - 三浦日記

東京は秋風の中——エレファントカシマシ 日比谷野音 The Final〜 俺たちの野音 ライブレポート 前編

呼ばれたのは最後の方だった。身分証明書を提示し、遺跡のような雰囲気の苔むしたコンクリート造りを進んでいく。場内に続くスロープを上ってゆくと、景色が開けてきた。本来であれば、もう二度と見るはずのなかった光景。後方立見席は、会場の一番後ろの少し広くなっているスペースだった。体を預けられるくらいの高さの手すりが数か所にわたって設置されており、中央にはPA席と関係者席のテントがあった。会場内ではThe Smashing Pumpkinsの「1979」が流れている。今回の開演前に流れる音楽は、宮本の音楽的な嗜好を特に強く感じた。The Rolling Stones、そしてイギー・ポップ、ロックレジェンドの楽曲は、往年のアンセムソングではなく、いずれも2020年代にリリースされた楽曲というところにも彼の"らしさ"が滲む。楽曲を構成するビート、ラウドネスは野音のコンクリートに染み渡っていく。

突然、空気が一変するのを感じる。ベックの「Morning」が流れ始めた。スローなアコースティックサウンドはやがてRadioheadの「Fake Plastic Tree」へと地続きにつながっていく。会場もそれに呼応するように、異様な静けさで満ち溢れていく。ステージの周辺はスモークによって霞がかり、何か神的な行事が行われるかのような様相を呈し始めている——。規則的にリフレインするアンビエントがフッと止まった。緊張感の極致の数秒間。やがて、照明がパッと点灯し、ステージを黄白色に染め上げた。17時4分、いよいよ最後の野音の幕開けである。割れんばかりの拍手の中現れたメンバーたちは、真っ黒い衣装で揃えられている。宮本浩次(Vo./Gt.)、冨永義之(Dr.)、高緑成治(Ba.)、石森敏行(Gt.)の4人だけ。余計な所作を一切入れることなく、それぞれの持ち場へと向かう。

「エブリバディようこそ!」石森の方向を向いた宮本、手をだらんと下ろし俯くとたちまち顔は長髪で覆われた。 異形のような佇まい。宮本に微かな動きが見えた。それを逃すまいと、阿吽の呼吸で静謐な単音ギターのフレーズが鳴らされる。1曲目は『「序曲」夢のちまた』。ベースのルート音に宮本の声、数小節を経てバスドラムとギターのアルペジオが加わる。極限まで音が削ぎ落とされた世界の中で、祈るように歌い上げるその歌声には全く濁りがない。59年という時の流れを忘れてしまったかのような瑞々しささえ感じられる。都会の空にどこまでも伸びていく声。終盤〈春の一日が通り過ぎていく/ ああ 今日も夢か幻か/ ああ 夢のちまた〉の箇所では、ギアが一挙に数段階上がり、そのハイトーンは地響きのような荒々しい音に変容する。一瞬にして、観客のみならず、建物全体が揺り起こされるような感覚に陥った。ついに、始まった——。

間髪を入れずに「俺の道」へ。ここからキーボードに細海魚が加わる。イントロ、ギターのコードストロークとシンバルに着けられたタンバリンの音が充満する会場内。突然、遠くの方からけたたましい車のエンジン音が近づいてきた。音はドップラー効果により、甲子園のサイレンのような高音となってすぐに消えた。わずか数秒の出来事。不思議なことに、全くうるさいと思わなかった。むしろ、暴風雨のような狂気に満ちた楽曲の始まり警告する演出のようにさえ思えた。野音は、そしてエレファントカシマシは、東京のありとあらゆる音を受け入れ、呼応する。サビでは囁くような序盤から一転し〈ドゥドゥドゥドゥッドゥドゥー〉と言葉にならない叫び声でまくし立てていく。スキャットに収まりきらない感情はさらに、余韻のような掛け声になって横溢する。声が裏返ろうが掠れようが関係ない。楽曲の最高音の点にひたすら声をぶつけていくだけの狂気的所業。宮本はやがて、足を大きく広げた蟹股の体勢になり、さらにギアを上げていく。恐ろしいことにその熱量が上がれば上がるほど、声の 音程 ( ピッチ ) は正確になっていく。人間の姿を辛うじて保っているバケモノがそこに、いる。

続いて、1988年のデビューアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』から2曲立て続けに「デーデ」と「星の砂」が披露される。当時を懐かしむ素振りはどこにもない。瞬間の連続が今日までただただ続いているだけ。そのせいだろうか、この日の宮本からは20代の頃と限りなく近似値の青さを感じる。そして、放たれるメッセージもまた、2025年の世界において、リアルタイム性をもって聴こえてくる。僅かながらに綻びのあったバンドサウンドは、宮本の扇動によって徐々にひとつの塊になっていく。いつの間にかスーツを脱ぎ捨て、白シャツ姿になった宮本。「ブワァー」と立て続けに数回、「星の砂」のアルペジオの余韻を掻き消すように締めくくってから始まったのは「太陽ギラギラ」だった。どうやら今日はとんでもないコンサートになりそうだ。(続く)

開演前SE01. Pixies - Winterlong02. Lenny Kravitz - Let Love Rule03. The Smashing Pumpkins - 197904. The Rolling Stones - Mess It Up05. Iggy Pop - Modern Day Ripoff06. The Stone Roses - Driving South07. Beck - Morning08. Radiohead - Fake Plastic Trees09. Weezer - Say It Ain't So10. Sigur Rós - Gold11. Steve Reich - Electric Counterpoint: I. Fast

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